東京地方裁判所 昭和43年(ワ)9845号・昭46年(ワ)10072号 判決
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【判旨】
一原告延和主張の田中元晴名義の定期積金返還請求および原告輝主張の田中孝枝名義の定期積金返還請求について
被告金庫が昭和三五年三月二五日預金者名義田中元晴とする請求原因一1(一)ないし(六)記載のような内容の定期積金契約を締結し、右につき請求原因一2記載のとおり合計三七万一、〇〇〇円の払込を受けたこと、被告金庫が昭和三四年六月二九月預金者名義を田中孝枝とする請求原因二1(一)(1)ないし(6)記載のような内容の定期積金契約を締結し、右につき昭和三四年六月分から昭和三六年三月分まで二二回、合計五八万三、〇〇〇円の払込を受けたことは当事者間に争いがない(なお、原告輝は、右田中孝枝名義の定期積金の払込額は昭和三六年五月分まで二四回、合計六三万六、〇〇〇円である旨主張しているが、この点については暫く置く。)。
そこで、つぎに、右各定期積金の預金者が原告らの主張するように田中元晴名義のものは原告延和であり、また、田中孝枝名義のものは田中位子であるか否かについて判断する。
右の点について、原告延和は、その本人尋問において、右田中元晴名義の定期積金は被告金庫葛飾支店の従業員中村章宏から勧誘されてヒドリ自転車において原告延和本人が契約したものであり、その掛込金の支払も、ヒドリ自転車の経理に金員を預けて支払つたこともあるが、原告延和自身が被告金庫葛飾支店に直接払込んだり、被告金庫の従業員である右中村がヒドリ自転車に来たとき払込んだりしていたものであつて、右定期積金の預金者は原告延和である旨供述し、また、原告輝は、その第一回の尋問において、右田中元晴名義の定期積金を契約したのが誰か知らないが、ヒドリ自転車が契約したのでないことは確かである旨供述し、また、同原告は右田中孝枝名義の定期積金につき、その第二回の尋問において、同定期積金は被告金庫の従業員である右中村から明治座の招待券がもらえるからと勧誘されて妻の位子が契約したものである旨供述し、さらにまた、ヒドリ自転車の経理課長であつた証人中島新治は、右田中元晴名義の各定期積金はいずれも個人のものであつてヒドリ自転車のものではなく、被告金庫の従業員がヒドリ自転車に右各定期積金の掛込金を集金に来るので、原告延和らの給与のうちから支払つたり、会社が仮払金に計上して立替払いをしたりしたことはあつたが、それとても右各定期積金の契約締結後暫くしてからのことである旨証言している。
これに対し、証人中村章宏(第一回)は、右田中孝枝名義の定期積金契約を締結した一週間ないし一〇日前、ヒドリ自転車の代表取締役原告輝から被告金庫に対し、ヒドリ自転車に対する融資の申込があり、右田中孝枝名義定期積金は、右会社代表取締役の原告輝および同会社経理課長中島新治と被告金庫の従業員の同証人とで話合をしたうえ、融資期待の取引として締結されたのであり、その際原告輝の申出により名義を田中孝枝としたまでであり、また、右田中元晴名義の定期積金も、ヒドリ自転車の右中島経理課長と同証人との間で締結されたのであつて、右いずれの定期積金についても、その掛込金はヒドリ自転車が支払つていたものであり、それ故、右各定期積金は他の同会社の定期預金等とともに、同会社の被告金庫に対する借入金債務の支払担保のため質権設定に供されたものであり、いずれの定期積金もその預金者はヒドリ自転車であつた旨証言している。
そこで、右対立しているこれら供述のいずれがより信憑力があるかをまず検討する。
<証拠>によれば、田中元晴は原告延和の、また、田中孝枝は原告輝の妻位子の通称であることが認められ、また、<証拠>によれば、ヒドリ自転車は被告主張の答弁3(一)記載のような経緯を辿つて昭和三七年二月二七日更生手続開始決定を受けたこと、そこで、被告金庫は同会社に対する債権とを対等額において相殺したうえその残額を昭和三七年四月二六日付をもつて東京地方裁判所に更生担保権者として債権届したが、本件の田中元晴名義および田中孝枝名義の各定期積金は右の相殺の対象外とされていたことが認められるので、これらの事実に照らすと、証人中村章宏の右証言よりも原告延和、同輝および証人中島新治の右各供述の方が一理あるようにもみえないではない。
しかしながら、当事者間に争いのない事実と<証拠>によれば、ヒドリ自転車は原告輝一族からなるいわゆる同族会社であり、その役員も原告輝を筆頭に、その娘の婿養子である原告延和、原告輝の妻位子らによつて占められ、同会社の運営は主に代表取締役の原告輝、専務取締役の原告延和および原告輝と姻戚関係にあり同会社の経理課長の地位にあつた中島新治によつてなされていたことが認められ、また、<証拠>によれば、被告金庫は本件田中元晴名義および田中孝枝名義の各定期積金の掛込金の支払をヒドリ自転車の経理から受けていたこと、右掛込金の支払にあたつては、同会社が被告金庫に割引依頼をした割引手形の内金をもつてその支払にあてられたこともあることが認められるうえ、<証拠>によれば、ヒドリ自転車は昭和三五年秋頃から運転資金が逼迫し、同年一二月初め頃、被告金庫に対し、融資の増額方を申入れたこと、被告金庫はすでに担保の限度額一杯まで融資していたので、いつたんは右申入れを断つたが、ヒドリ自転車の強い要請から、同会社の被告金庫に対する定期預金等で未だ担保に供されていないものを洗い出し、これを担保とするほか、当時の被告金庫葛飾支店長井上が自己の割引興業債権を担保に提供するとの異例の便宜を計つて同社会の右申入れに応ずることとし、同会社から担保差入証を徴したうえ、同会社に運転資金の融資をしたこと、担保差入証の内訳記載欄には他の定期積金とともに本件田中元晴名義および田中孝枝名義の各定期積金の記載があり、同内訳記載欄の部分は被告金庫の従業員中村章宏が記載したものであるが、右融資増額の申入れから担保の差入れ等の交渉は同会社の経理課長中島および同会社専務取締役の原告延和があたつていたのであり、同人らはこの間の経緯を熟知していたことが認められる(――略――)ので、本件各定期積金が原告延和および田中位子の通称たる田中元晴、田中位子の名義をもつてなされているからといつて、原告延和、田中位子がそれらの定期積金の預金者であるとはにわかに断定し難く、また、被告金庫がヒドリ自転車の更生手続において債権届をする際、他の預金債権については相殺しながら本件各定期積金債権については相殺しなかつたとの点についても<証拠>によれば、当時被告金庫は会社更生法およびその手続に不慣れであつたため、当初、被告金庫は、ヒドリ自転車の被告金庫に対する預金債権と相殺することなく、同会社に対する全債権を届出たところ、管財人から預金債権がある場合はこれと相殺のうえその残額を届出るべきものと言われ、急拠ヒドリ自転車名義の預金債権を計算して相殺し、訂正の債権届をしたが、右相殺にあたつて、本件各定期積金がヒドリ自転車名義になつていなかつたため失念したにすぎないことが認められるから、本件各定期積金債権について相殺することなく債権届をしたことをもつて、被告金庫自身本件定期積金の預金者がヒドリ自転車でなく、原告延和および田中位子であると認めていた証左であるということもできないといわなければならない。
そうとすれば、本件各定期積金の名義が原告延和、田中位子の通称をもつてなされているものであること、被告金庫が更生手続において債権届をする際本件各定期積金について相殺しなかつたことは、原告延和、同輝および証人中島新治の前示右各定期積金の預金者はヒドリ自転車ではなく、原告延和、田中位子である旨の各供述の裏付けとなるものとはいえず、また、原告延和、同輝および証人中島らは前示のとおりいずれも身内の関係にあるものであるから、その性質上、同人らの各供述が互に補強し合い証拠価値を高める関係にあるとにわかに認めることはできないばかりか、前示証拠によつて認定した事実関係、すなわち、被告金庫は右各定期積金の掛込金をヒドリ自転車の経理から受領していたこと、右掛込金の支払につき同会社の依頼した割引手形の内金をもつて充てられたこともあること、同会社が右各定期積金につき担保権を設定していること等は原告延和、同輝および証人中島の右各供述と明らかに相入れないものであるので、原告延和らの右各供述に信憑性を認めることはできないといわざるをえない。それに引き替え、証人中村章宏の前示証言は、前示認定の事実関係に符合し、また、その証言内容自体においても矛盾する点は認められないので、被告金庫の従業員であり、本件各定期積金の担当者であつたことを考慮に入れても、信用性を認めるに足りるものというべきである。
右のとおり、原告延和らの各供述より証人中村章宏の証言がより信用性の高いものと認められ、また、他に本件各定期積金の預金者が原告延和および田中位子であると認めるに足りる的確な証拠もない以上、右各定期積金の預金者は被告主張のとおりヒドリ自転車と認めるのが相当である。
したがつて、原告延和および同輝の右各定期積金返還請求は、その余の点について判断するまでもなく、失当として棄却を免れないものといわざるをえない。
(海保寛)